Page:NDL1142084 南支南洋研究調査報告書 第4輯 part1.pdf/31

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化でなければならないと言ひ放つてゐるのである。文化的指導家の彼が斯くの如き言葉を發して居る位、支那語を 拉丁化にせんとする一部文化人の熱望は熾んなるものがあつたのである。又一方此の拉丁化法案は(南邦經濟十卷第一號 の七七頁に示した如く)五つに分けた地方々言を標準として、各々の拉丁文化を計る立前となつてゐる關係上、五 方言の硏究は、改めて之等拉丁化運動家達に依つて行はれるに至つた。北京語は國語として硏究されてゐる爲か、先 づ北方語拉丁化案が世に問はれた。(之に關しては北京新文字硏究會の『新文字課本』が最も詳しく說いてゐる)續い て胡繩氏の『江南話槪論』『厦門語槪論』が公にせられ(一九三四年)、次いで『廣州新文字統一方案』(廣州新文字書 店出版ママ一九三六年)、『廣州話新文字課本』が世に問はれた(一九三七年)斯くして、湖南、江西方言を除いた、全 ての拉丁化の用意は完了したのであるが、實績から言つたならば、全く見るべきものを持たぬ中に、今回の事變に逢 著し、すべての文化運動の餘儀なき停止と同時に、その普及も一時的(或は相當長い時間に亙るかも知れないが)休 止のやむなきに至つてゐる。此の拉丁化については、支那の國字問題と關聯して、極めて興味ある問題を我々の前に 提供して吳るのであるが、一方我々の如く支那語を學習硏究して居る者には、その發音に關して實に有益なる知識を 授けてくれるのである。こゝに改めて、廣東語の拉丁化方案を紹介せんとする意圖は、今日迄發音に關して定說のな い、廣東語界に一資料を提供せんとするに外ならない。

扨て廣州語方案は一九三六年に公にせられたが、その案の內容は北方語拉丁化案の一般原則を廣東語に踏襲せるに 過ぎず又極めて抽象的なものである。『廣州話新文字課本』は荻原氏(中國人)の編著にかゝり、一九三七年二月に出 版され、『方案』に比して、極めて具體的であり、殊に我々廣東語を學習する者にとつて、知り度い發音について詳述 しあるを以て、玆には此の『課本』を基にして說明して行く豫定である。

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第一部 撥音

  1. 母音 拉丁化廣州語(以下單に拉廣と稱す)に於いては母音の數は六箇である。卽ち
    a 〔a〕 a
    e 〔ɛ〕 ママ e
    i 〔i〕 i
    o 〔ɔ〕 o
    u 〔u〕 u
    y 〔y〕 ü

    〔〕內は國際音標、三段目は注音符號、()內は北京語ウエード式、aeiouの五母音は「正則母音」、yは「非 正則母音」と言はれる。之は前者が共に圓唇、縮舌、扁唇、舌伸の法則に依つてゐるに反し、後者は、此の法 則の二種を合せ用ゐる爲である。此の中eとuは獨立しない。yの發音は、北京語の「u」に同じである。卽ち iを發音しつゞけて、口をuの型にすれば、この音が出て來る。

  2. 複母音 『拉廣』に於いては、十一の複母音を擧げてゐる。
    1. iとの複合……五種