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に依りて相互の幸福を享有せざる可らず。

斯かる國家を形成するには、上に、命令者として普く國民を首肯せしむるに足るものゝ存在する事は第一必要條件なり、我皇室は最も此條件に適合し、而も現今世界に於ける唯一のものなり。

我國が悠久の古、此大八洲に國を爲すや少數の所謂天孫民族が其一統相率ゐて來り、夷族を平らげ、荊棘を開き、農を興し以て漸く增殖し、發展して遂に國家を成す、而して其源元を傳說に依りて察すれば、現皇室の祖先が、始めより其首長として一統を率ゐたるは疑ふ可らず、神話に依りても明かなるが如く、其第一宗家の家長が始めより其支族を包含する所の一統に首長として臨めるなり、吾人は現今殘存せる神話を通じて推察を行ふ時此以外の想像を形成する事能はず、又此想像には何等の不合理あることなし。

斯くて宗家の家長を首長と戴ける一族は、支族に支族を生じ、漸次發展して國家を形くり、其發展中の或時期に於て我九州の地に都し、後東に移りて大和に占據し、異族を平らげ、遂に今日の日本帝國の基を開けるものなり、即ち大日本帝國は多くの學者が認むる如く、一大綜合家族ともいふべきものにして(其間に介在する異分子は勢力として云ふに足らざるものなりしかば何時しか融和同化したるものゝ如し)、其始めより宗家の家長として全族に臨めるものは卽ち現在の皇室の祖宗なり。

全國民の心に不滿を抱かずして服從せしめ得る首長と云へば是以上の何者をも望む能はざるなり。

されど、俗諺にも「兄弟は他人の始まり」と云ふが如く、始め一家族より出でたりとするも、漸く膨張して互に相隔たるに於ては其間に骨肉の親みを保持する事は實際に於て不可能なり、理に於て同族なりと雖も情に於て他人となるは免るゝ事能はざるなり、然るに幸に其間の綛結となれるものあり、祖先崇拜の觀念是なり。

一部少數の人を除きては大抵靈魂の不滅を信す、勿論信ずる程度には種々あり、死後靈魂の存續を確信する人と、果して存續するやは明確ならざるも到底否認する丈けの理論と勇氣とを有せずといふ人との差はあるも、兎に角多くの人は或程度まで此觀念を有す、もし死後靈魂が不滅なりとすれば、其生前自己を愛護したる父祖が、死して靈位に替りたりとするも、自己を愛護する事を止むる理なしと思ふ、又自己が子孫の幸福を希ふの情切なるより類推するも、父祖の靈位は必ず自己及び自己の子孫を愛護すべしと思ふ、之れ祖先崇拜の信仰の存する所以なり、其父祖