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Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/6

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くもめさで臥させ給ひぬれば、又󠄂添ひ臥しまゐらせぬ。かくおはしませば、殿も夜晝たゆまず參らせ給へば、いとゞ〈□□□〉はれにはしたなき心ちすれば、三位殿も「折にこそ𛁈たがへ。かばかりになりにたる事に、なんでふもの憚りはする」とあれば、いかゞはせむとて過󠄁ぐす。大殿近󠄁くまゐらせ給へば、御膝高くなしてかげにかくさせ給へば、我も單衣を引きかづきて臥して聞けば、「御うらには」とぞ申したる。かくぞ申したる御祈︀は、それぞれなむ始まりぬる。又󠄂「十九日よりよき日なれば、御佛御修法のべさせ給ふ」と申させ給へば、「それまでの御命やはあらむずる」と仰せらる。悲しさせきかねて覺ゆ。大殿立たせ給ひぬれば、引きかづきたる單衣ひきのけて、打ち仰ぎまゐらせなどするほどに、宮の御方より、宣旨仰書「三位などの侍はるゝをりこそ、こまかに御ありさまも聞きまゐらすれ。大かたの御返󠄂りのみ聞くなむおぼつかなき。昔の御ゆかりにはそこをなむ同じう身に思しめす。今の御ありさま細かに申させ給へ」とあり。「たが文󠄃ぞ」と問はせ給へば「何の御かたより」と申せば、「晝つ方、上らせ給へ」と仰事あれば、さ書きてまゐらせ給へば、晝つ方になる程󠄁に「道󠄁具などとりのけて皆人々うち休め」とておりぬ。されどもし召すこともやと思へば、御障子のもとに侍らふ。いかなる事どもをか申させ給ふらむ。いかでかは知らむ。𛁈ばしばかりありて、御扇󠄁打ち鳴らして召す。それとりてと仰せらるべき事ありければ、めして「猶󠄁」仰せらるゝ事ありと見えたり。立ちのく。「御さうじ立てゝ、御扇󠄁ならさせ給へ」と申させ給ひければ、御障子あくことむごになりぬ。夕つかた歸らせ