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Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/7

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給ひぬれば、誰も誰も參りあふぬ。御氣色、うちつけにや、かはりてぞ見えさせ給ふ。「今日しもすこし夜の明けたる心ちして憂ゆれ」と仰せらるゝ。聞く心ちの嬉しさ、何にかは似たる。御前にかなまりにひのおほらかに入りたるを御覽じて「あれ見れば心ちのさわやかに覺ゆる。ひの大きならむ、ひさげに入れて人ども集めて食󠄁はせて見む」と仰せらるれば、女房󠄁たち皆立ちのきぬ。大殿ばかりぞ侍はせ給ふ。大貳三位大tのの三位殿ぐして夜のおとゞに入りて、戶口に御几帳立てゝほころびより見れば、大殿長押のもとに侍らせ給ひて御簾ぎはのもとになかなかと右衛門督〈雅俊〉、源中納󠄁〈國信〉、大臣殿〈雅實〉の權中納󠄁〈□□〉、宰相中將〈□俊〉、左大辨〈□□〉など召し入れて大臣殿ひ取りて各にたぶ。我もせむと思したる、もてはやさむとなめりと見えて一つ取り給ひぬ。御几帳の內なる人かやうにて一年のやうに病ませ給へかし、いかばかり嬉しからむと思ふ。暮れはてぬれば、人々大となぶらなどまゐらすほどに、いみじう苦しげに思しめされたれば、殿たちいそぎまゐらせ給うて、增譽僧︀正など召し騒ぐ。參り給へれば、御几帳立てゝ、われらはすべりのきて聞けば、加持まゐり給ふ。經讀みなどするけにや、靜まらせ給ひいておほとのごもらせ給ふけしきなり。かくいふは十五日の古都とぞ覺ゆる。かやうにて今宵もあけぬれど、猶󠄁弱󠄁げに見えさせ給ふ。今日も暮れぬ。』十七日の曉に、大貳三位、あからさまにまかでゝ「この胸の堪へがたく覺ゆれば湯すこし試みて立ちかへりまゐらむ」とて出で給ひぬ。暮るゝとひとしくまゐり給ひてうち見まゐらせて、「あないみじ。晝見まゐらせざりつる程󠄁に腫れさせ給ひにけり」などいひ合せらるゝを聞かせ給うて「何事いふぞ」と仰せらる