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Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/346

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夜に入りてものゝはえなしといふ人、いとくちをし。萬の物のきらかざり色ふしも、夜のみこそめでたけれ。晝はことそぎおよすげたる姿にてもありなむ。夜はきらゝかに華やかなるさうぞくいとよし。人のけしきも、夜のほかげぞよきはよく、物いひたる聲も、暗くてきゝたる、用意ある心にくし。にほひもものゝ音も、たゞ夜ぞひときはめでたき。さしてことなることなき夜うちふけて參れる人の、きよげなるさましたるいとよし。若きどち心とゞめて見る人は、時をもわかぬものなれば、殊にうち解けぬべきをりふしぞ、けはれなくひきつくろはまほしき。よき男の、日暮れてゆするし、女も夜ふくるほどにすべりつゝ、鏡とりて顏などつくろひ出づるこそをかしけれ。

神佛にも人のまうでぬ、日夜まゐりたるよし。

くらき人の人をはかりて、その智をしれりとおもはむ、更にあたるべからず。拙き人の碁うつことばかりにさとくたくみなるは、かしこき人のこの藝におろかなるを見て、おのれが智に及ばずとさだめて、よろづの道のたくみ、我が道を人の知らざるを見て、おのれすぐれたりと思はむこと、大なるあやまりなるべし。文字の法師、暗證の禪師、互にはかりて、おのれにしかずと思へる、ともにあたらず。おのれが境界にあらざるものをば、爭ふべからず。是非すべからず。

達人の人を見る眼は、すこしも誤るところあるべからず。たとへばある人の世に虛言をかまへ出して、人をはかることあらむに、すなほにまことゝ思ひて、いふまゝにはからるゝ人あ