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Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/345

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やうに、一大事の因緣をぞ思ふべかりける。

今日はその事をなさむと思へど、あらぬいそぎまづ出で來てまぎれくらし、待つ人はさはりありて、たのめぬ人はきたり。賴みたる方のことはたがひて、思ひよらぬ道ばかりはかなひぬ。煩はしかりつる事はことなくて、安かるべきことはいと心ぐるし。日々に過ぎゆくさま、かねて思ひつるに似ず。一年の事もかくのごとし。一年の間もまたしかなり。かねてのあらまし皆たがひゆくかと思ふに、おのづから違はぬ事もあれば、いよいよものは定めがたし。不定と心えぬるのみまことにて違はず。

妻といふものこそをのこのもつまじきものなれ。いつもひとりずみにてなど聞くこそ心にくけれ。たれがしがむこになりぬとも、又いかなる女をとりすゑてあひすむなどきゝつれば、むげに心おとりせらるゝわざなり。ことなることなき女をよしと思ひ定めてこそそひ居たらめと、賤しくもおしはかられ、よき女ならばこの男をぞらうたくして、あが佛とまもりゐたらめ。たとへば、さばかりにこそと覺えぬべし。まして家の內を行ひをさめたる女、いとくちをし。子などいできて、かしづき愛したる心うし。男なくなりて後、尼になりて年よりたるありさま、なきあとまであさまし。いかなる女なりとも、明暮そひみむには、いと心づきなくにくかりなむ。女のためもなかぞらにこそならめ。よそながら時々通ひすまむこそ年月へても絕えぬなからひともならめ。あからさまに來てとまり居などせむはめづらしかりぬべし。