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Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/3

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推し量るべし。移りてその事とはいはでかはめきのゝ𛁈るさまいと恐ろし。少し御粥など參らすればめしなどすれば、嬉しさは何にかは似たる。「大臣はあるか」と問はせ給へば大殿入らせ給ひて、候ふよし申し給へば、「御幸はなりぬるか」と問はせ給えば「𛁈かなり候ひぬ」と申させ給へば、「參りて申せ。今は何事もやく候はじ。立てさせ給ふ尊󠄁勝寺にて九壇の護摩󠄁と懺法とさふらふべきなり。⼜さぶらはむずらむ事はなに事も今宵󠄁さぶらふべきぞ。明日あさてさぶらべき心地し侍らず」と仰せらるれば「あまり護摩󠄁こそ夥しく候へ」と申し給へば、「こはいかにいふぞ。かばかりになりたる事をば」と仰せらるれば、御直衣の袖を顏におしあてゝ立ち給ひぬ。それを聞かむ御乳󠄁母だちも、いかばかり覺えむ。大殿歸りまゐらせ給ひて、「されば去年をとゝしの御事にも、さるさたはさふらひしかど、宮〈乃羽〉の御年の、幼くおはしますによりて、今日までさふらふにこそとなむ侍る」と奏せらるゝにぞ、「何事も唯今宵󠄁定め候ふべきぞ」と仰せらるれば、さばこの御事にこそありけれと今ぞ心うる。誰もいも寢ずまもり參らせたれば、御氣色いと苦しげにて御足をうちかけて仰せらるゝやう「我ばかりの人の今日明日死なむとするを、かく目も見立てぬやうあらむや。いかゞ見る」と問はせ給ふ。聞く心ち唯むせかへりて、御いらへもせられず。堪へがたけにまもりゐるけはひの𛁈るきにや、とひやませ給ひて、大貳三位長押のもとに侍ひ給ふを、見つけおはして「おのれはゆゝしくたゆみたるものかな。我は今日明日死なむずるは知らぬか」と仰せらるれば、「いかでたゆみ候はむずるぞ。たゆみ侍らねど、力の及び候ふ事に侍らばこそ」と申さるれば、「何か今たゆ