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師もあらまほしきわざなめれ。親などいかに嬉しからむとこそおしはからるれ。

     見ぐるしきもの

きぬのせぬひかたよせて着たる人、又のけくびしたる人、下簾穢げなる上達部の御車。例ならぬ人の前に子をゐていきたる。袴着たる童の足駄はきたる、それは今やうのものなり。つぼさう束したる者の急ぎて步みたる。法師陰陽師の紙かうぶりして祓へしたる。又色黑う瘦せ憎げなる女のかつらしたる。髭がちにやせやせなる男と晝ねしたる。何の見るかひに臥したるにかあらむ、よるなどはかたちも見えず、又おしなべてさる事となりにたれば、我にくげなりとて起きゐるべきにもあらずかし。つとめて疾く起きいぬるめやすし。夏晝ねして起きたる、いとよき人こそ今少しをかしけれ。えせがたちはつやめきねはれて、ようせずはほそゆがみもしつべし。かたみに見かはしたらむ程のいけるかひなさよ。色黑き人のすゞし單衣着たるいと見ぐるしかし。のしひとへも同じくすきたれどそれはかたはにも見えず、ほその通りたればにやあらむ。

ものくらうなりて文字もかゝれずなりたり。筆も使ひはてゝこれを書きはてばや。この草紙は目に見え心に思ふ事を人やは見むずると思ひて、つれづれなる里居のほどに書き集めたるを、あいなく人のためびんなきいひ過ぐしなどしつべき所々もあれば、きようかくしたりと思ふを、淚せきあへずこそなりにけれ。宮の御前にうちのおとゞの奉り給へりけるを、「これに何をかゝまし。うへの御前には史記といふ文を書かせ給へる」などのたまはせしを「枕