Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/385

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をほのぎゝたる。人よりは猶少しにくしと思ふ人の推し量り事うちしすゞろなる物恨みし、我かしこげなる。心あしき人の養ひたる子。さるはそれが罪にもあらねどかゝる人にしもと覺ゆる故にやあらむ、「數多あるが中に、この君をば思ひおとし給ひてやにくまれ給ふよ」などあらゝかにいふ。ちごは思ひも知らぬにやあらむ、もとめて泣き惑ふ心づきなきなめり。おとなになりても思ひ後みもて騷ぐ程に、なかなかなる事こそおほかめれ。侘しくにくき人に思ふ人のはしたなくいへど、添ひつきてねんごろがる。「聊心あし」などいへば常よりも近く臥して物くはせいとほしがり、その事となく思ひたるにまつはれ追從しとりもちて惑ふ。宮仕人の許にきなどする男の其所にて物くふこそいとわろけれ。くはする人もいと憎し。思はむ人のまづなど志ありていはむを、忌みたるやうに口をふたぎて、顏を持てのくべきにもあらねば、くひをるにこそあらめ。いみじう醉ひなどしてわりなく夜更けてときりたりとも更にゆづけだにくはせじ、心もなかりけりとて來ずはさせてなむ。里にて北面よりし出してはいかゞせむ。其だに猶ぞある。初瀨に諸でゝ局に居たるにあやしきげすどものうしろさしまぜつゝ、居なみたるけしきこそないがしろなれ。いみじき心を起して詣でたるに、川の音などの恐しきにくれ階をのぼり困じていつしか佛の御顏を拜み奉らむと、局に急ぎ入りたるに簑蟲のやうなる物のあやしききぬ着たるがいとにくき立居額づきたるは押し倒しつべき心ちこそすれ。いとやんごとなき人の局ばかりこそ前はらひあれ、よろしき人は制しわづらひぬかし。賴もし人の師を呼びて言はすれば、「そこども少し去れ」などいふ程こそあれ、