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 「誓へきみ遠つあふみのかみかけてむげに濱名のはし見ざりきや」。

びんなき所にて人に物をいひけるに、「胸のいみじうはしりける、などかくある」といひけるいらへに、

 「逢坂はむねのみつねにはしり井のみつくる人やあらむとおもへば」。

     唐ぎぬは

あかぎぬ、えび染、萠黃、さくら、すべて薄色のるゐ。

     裳は

大海、しびら。

     汗衫は

春は躑躅、櫻。夏は靑朽葉、朽葉。

     織物は

むらさき、しろき。萠黃に柏葉織りたる。紅梅もよけれどもなほ見ざめこよなし。

     紋は

あふひ、かたばみ。

夏うすもの片つ方のゆだけきたる人こそにくけれど、數多重ね着たればひかれて着にくし。綿など厚きは胸などもきれていと見ぐるし。まぜて着るべき物にはあらず。猶昔よりさまよく着たるこそよけれ。左右のゆだけなるはよし。それも猶女房のさう束にては所せかめり。