Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/377

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きときたれば、ぬぎ垂れられていみじうこぼれいでたり。指貫の片つかたはとじきみのとにふみ出されたるなど、道に人の逢ひたらばをかしと見つべし。月かげのはしたなさに、後ざまへすべり入りたるを、引き寄せあらはになされて笑ふもをかし。「凛々として氷鋪けり」といふ詩を、かへすがへすずんじておはするは、いみじうをかしうて夜一夜もありかまほしきに、いく所の近くなるもくちをし。

宮仕する人々の出で集りて君々の御事めで聞え、宮の內外の端の事どもかたみに語り合せたるを、おのが君々、その家あるじにて聞くこそをかしけれ。

家廣く淸げにて親族は更なり、たゞうちかたらひなどする人には、宮づかへ人片つ方にすゑてこそあらまほしけれ。さるべき折は一所に集り居て物語し、人の詠みたる歌何くれと語りあはせ、人の文など持てくる、「もろともに見、返事かき又むつましうくる人もあるは、淸げにうちしつらひて入れ、雨など降りて得かへらぬもをかしうもてなし、參らむをりはその事見入れて思はむさまにして出し立てなどせばや。善き人のおはします御有樣などいとゆかしきぞ、けしからぬ心にやあらむ。

     見ならひするもの

あくび、ちごども、なまけしからぬえせもの。

     うちとくまじきもの

あしと人にいはるゝ人。さるはよしと知られたるよりはうらなくぞ見ゆる。