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     舞は

駿河舞、もとめこ。太平樂はさまあしけれどいとをかし。太刀などうたてくあれどいとおもしろし、もろこしにかたきに具して遊びけむなど聞くに。鳥の舞。ばとうは頭の髮ふりかけたるまみなどはおそろしけれど樂もいとおもしろし。落蹲は二人して膝ふみて舞ひたる。こまがた。

     ひきものは

琵琶、さうのこと。

     しらべは

ふかうでう、わうしきでう、そかうのきふ、鶯のさへづりといふしらべ、さうふれん。

     笛は

橫笛いみじうをかし。遠うより聞ゆるがやうやう近うなりゆくもをかし。ちかゝりつるがはるかになりていとほのかに聞ゆるもいとをかし。車にてもかちにても馬にても、すべてふところにさし入れてもたるも何とも見えず。さばかりをかしきものはなし。まして聞き知りたる調子などいみじうめでたし。曉などに忘れて枕のもとにありたるを見つけたるも猶をかし。人の許よりとりにおこせたるをおし包みて遣るも唯文のやうに見えたり。さうのふえは月のあかきに車などにて聞えたるいみじうをかし。所せくもてあつかひにくゝぞ見ゆる。吹く顏やいかにぞ。それはよこ笛もふきなしありかし。ひちりきはいとむつかしう秋の蟲をい