Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/298

提供:Wikisource
このページは校正済みです

のなるべきをりもきかまほし。思ふ人のおこせたる文。

     こゝろもとなきもの

人の許にとみの物ぬひにやりて待つほど。物見に急ぎ出でゝ、今や今やとくるしう居入りつゝ、あなたをまもらへたる心ち。子產むべき人の、ほど過ぐるまでさるけしきのなき。遠き所より思ふ人の文を得てかたくふんじたるそくひなど放ちあくる心もとなし。物見に急ぎ出でゝ、事なりにけり〈とてイ有〉白きしもとなど見つけたるに、近くやりよする程わびしうおりてもいぬべき心ちこそすれ。知られじと思ふ人のあるに、前なる人に敎へて物いはせたる。いつしかと待ち出でたるちごのいかもゝかなどのほどになりたる、行く末いと心もとなし。とみのもの縫ふにくらきをり針に糸つくる。されど我はさるものにてありぬべき所をとらへて、人につけさするに、それも急げばにやあらむ、とみにもえさし入れぬを、「いで唯なすげそ」といへど、さすがになどてかはと思ひがほにえさらぬは、にくささへそひぬ。何事にもあれ、急ぎて物へ行く折、まづわがさるべき所へ行くとて、唯今おこせむとて出でぬる車待つほどこそ心もとなけれ。大路いきけるを、さなりけると喜びたれば、外ざまにいぬるいとくちをし。まして物見に出でむとてあるに「事はなりぬらむ」などいふを聞くこそわびしけれ。子うみける人ののちのこと久しき。物見にや、又御寺まうでなどに諸共にあるべき人を乘せにいきたるを車さし寄せたてるが〈にイ〉とみにも乘らでまたするもいと心もとなく、うちすてゝもいぬべき心ちする。とみにいりずみおこすいとひさし。人の歌の返しとくすべきをえ詠み得ぬほ