Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/297

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などにはあらで、たゞ引きはこえたるが「まろは七たびまうでし侍るぞ。三たびはまうでぬ。四たぴはことにもあらず。未には下向しぬべし」と道に逢ひたる人にうち言ひてくだりゆきしこそたゞなる所にては目もとまるまじきことの、かれが身に唯今ならばやとおぼえしか。男も女も法師もよき子もちたる人いみじううらやまし。髮長く麗しうさがりばなどめでたき人。やんごとなき人の、人にかしづかれ給ふもいとうらやまし。手よく書き歌よく詠みて物のをりにもまづとり出でらるゝ人。よき人の御前に女房いとあたまさぶらふに心にくき所へ遺すべき仰せがきなどを誰も鳥の跡などのやうにはなどかはあらむ。されど下などにあるをわざと召して、御硯おろしてかゝせさせ給ふうらやまし。さやうの事は所のおとなゝどになりぬれば、まことになにはわたりの遠からぬも、事に隨ひて書くを、これはさはあらで、上達部のもと、また始めてまゐらむなど申さする人のむすめなどには心ことにうへより始めてつくろはせ給へるを、集りてたはぶれにねたがりいふめり。琴笛ならふにさこそはまだしき程は、かれがやうにいつしかと覺ゆめれ。うち東宮の御めのと。うへの女房の御かたがたゆるされたる。さんまいだうたてゝよひあかつきにいのられたる人。すぐろくうつにかたきのさいきゝたる。まことに世を思ひすてたるひじり。

     とくゆかしきもの

まきぞめ、むらご、くゝりものなど染めたる。人の子產みたる、男女とく聞かまほし。よき人はさらなり、えせものげすのきはだにきかまほし。ぢもくのまだつとめて、かならずしる人