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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/295

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し。われえはしたなくもいはで見るこそ心もとなけれ。

     名おそろしきもの

靑淵、谷のほら、はた板、くろがね、つちぐれ。いかづちは名のみならずいみじうおそろし。はやち、ふそう雲、ほ〈ひイ〉こぼし、おほかみ、牛はさめ、らう、ろうのをさ。いにすし、それも名のみならず見るもおそろし。繩筵。强盜又よろづにおそろし。ひぢかさ雨、くちなはいちご、いきすだま、おにどころ、おにわらび、うばら、からたち、いりずみ、ぼうたん。うしおに。

     見るにことなることなきものゝ文字にかきてことごとしきもの

いちご、露草、みづぶき、くるみ、文章博士、皇后宮の權大夫、やまもゝ。いたどりはまして、虎の杖と書きたるとか。杖なくともありぬべき顏つきを。

     むつかしげなるもの

ぬひものゝうら、猫の耳のうち。鼠のいまだ毛も生ひぬを、巢のうちよりあまたまろばし出したる。裏まだつかぬかはぎぬのぬひめ。殊に淸げならぬ所のくらき。ことなる事なき人の、ちひさき子など數多持ちてあつかひたる。いと深うしも志なき女の心ちあしうして久しく惱みたるも男の心の中にはむつかしげなるべし。

     えせものゝ所うるをりの事

正月のおほね、行幸のをりのひめまうちぎみ、みな月、十二月のつごもりのよをりの藏人。季の御讀經のいぎし、赤袈裟きて僧の文〈名イ〉ども讀みあげたるいとらうらうし。御讀經佛名など