Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/294

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はやらで、うちかたぶきて物など見るいとうつくし。たすきがけにゆひたる腰のかみの白うをかしげなるも見るにうつくし。おほきにはあらぬ殿上わらはのさうぞきたてられてありくもうつくし。をかしげなるちごのあからさまにいだきてうつくしむほどに、かいつきて寢入りたるもらうたし。ひゝなの調度。はちすのうき葉のいとちひさきを池よりとりあげて見る。葵のちひさきもいとうつくし。なにもなにもちひさき物はいとうつくし。いみじう肥えたるちごの二つばかりなるが白ううつくしきが、二藍のうすものなど、きぬながくてたすきあげたるが這ひ出でくるもいとうつくし。八つ九つ十ばかりなるをのこの、聲幼げにて文よみたるいとうつくし。鷄の雛の足だかに白うをかしげにきぬみじかなるさまして、ひよひよとかしがましく鳴きて、人のしりに立ちてありくも、又親のもとにつれだちありく見るもうつくし。かりの子、さりの壺、瞿麥の花。

     ひとばえするもの

殊なる事なき人の子のかなしくしならはされたる。しはぶき、耻かしき人に物いはむとするにもまづさきにたつ。あなたこなたに住む人の子どもの四つ五つなるはあやにくだちて、物など取りちらして損ふを、常は引きは〈いイ〉られなど制せられて、心のまゝにもえあらぬが、親のきたる所えてゆかしかりける物を、「あれ見せよや」〈と脫歟〉母など引ゆるがすに、おとなゝど物いふとて、ふとも聞き入れねば、手づから引きさがし出でゝ見るこそいとにくけれ。それを「まさな」とばかりうち言ひて取り隱さで「さなせそ。そこなふな」とばかりゑみていふ親もにく