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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/293

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     いやしげなるもの

式部のぞうの爵、黑き髮のすぢふとき、布屛風の新しき、ふり黑みたるはさるいふかひなき物にて、なかなか何とも見えず。新しくしたてゝ櫻の花多くさかせて胡粉すさなど色どりたる繪書きたる。遣戶、厨子、何も田舍物はいやしきなり。むしろばりの車のおそひ、檢非違使の袴、伊豫すの筋ふとき、人の子にほふし子のふとりたる、まことの出雲むしろの疊。

     むねつぶるゝもの

くらべうま見る。もとゆひよる。親などの心ちあしうして例ならぬけしきなる。まして世の中などさわがしきころ萬の事おぼえず。又物いはぬちごの泣き入りて乳も飮まず、いみじくめのとのいだくにもやまで久しうなきたる。例の所などにて殊に又いちじるからぬ人の聲聞きつけたるはことわり。人などのそのうへなどいふにまづこそつぶるれ。いみじくにくき人のきたるもいみじくこそあれ。よべきたる人のけさの文のおそき、聞く人さへつぶる。思ふ人の文とりてさし出でたるもまたつぶる。

     うつくしきもの

ふりに書きたるちごの顏。雀の子のねずなきするにをどりくる。又べになどつけてすゑたればおや雀の蟲などもて來てくゝむるもいとらうたし。三〈二イ〉つばかりなるちごの急ぎて這ひくる道に、いとちひさき塵などのありけるをめざとに見つけて、いとをかしげなるおよびにとらへておとななどに見せたるいと美くし。あまにそぎたる兒の目に髮のおほひたるを搔き