Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/285

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や。いかで聞き侍らむ」とたゞせめにせめ申して恨み聞えて笑ひ給ふに、やうやう仰せられ出でゝ「御使にいきたりける鬼童は、臺盤所のとじといふものゝ供なりけるを小兵衞が語らひ出したるにやありけむ」など仰せらるれば、宮も笑はせ給ふを、引きゆるがし奉りて、「などかくはからせおはします。猶うたがひもなく手をうちあらひて伏し拜み侍りしことよ」と笑ひねたがり居給へるさまもいとほこりかにあいぎやうづきてをかし。さてうへのだいばん所にも笑ひのゝしりて、局におりてこのわらはたづね出でゝ文取り入れし人に見すれば、「それにこそ侍るめれ」といふ。「たれが文をたれがとらせしぞ」といへば、しれしれとうちゑみてともかくもいはで走りにけり。藤大納言後にきゝて笑ひ興じ給ひけり。

     つれづれなるもの

所さりたる物いみ、うまおりぬすぐろく、ぢもくにつかさえぬ人の家。雨うち降りたるはましてつれづれなり。

     つれづれなぐさむるもの

物語、碁、すぐろく。三つ四つばかりなるちごの物をかしういふ。又いとちひさきちごの物語りしたるがゑみなどしたる。くだもの。男のうちさるがひ物よくいふがきたるは〈にイ〉物いみなれど入れつかし。

     とりどころなきもの

かたちにくげに心あしき人。みそひめのぬれたる。これいみじうわろき事言ひたるとよろづ