Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/251

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て立ちぬるに、御せ合せむとすればはやうたがひにけり。笑ひのゝしりて「これ縫ひ直せ」といふを「たれが惡しう縫ひたりと知りてか直さむ。あやなどならばこそ裏を見ざらむ、縫ひたがへの人のけになほさめ。無紋の御ぞなり。何をしるしにてか直す人誰かあらむ。唯まだ縫ひ給はざらむ人になほさせよ」とて聞きも入れねば「さ言ひてあらむや」とて源少納言、新中納言など言ひ直し給ひし顏見やりて居たりしこそをかしかりしか。これはよさりのぼらせ給はむとて「とく縫ひたらむ人を、思ふと知らむ」と仰せられしか。

見すまじき人に、外へ遣りたる文取りたがへてもて行きたるねたし。げに過ちてけりとはいはで口かたうあらがひたる、人目をだに思はずば走りもうちつべし。おもしろき萩すゝきなどを植ゑて見る程に、ながびつもたるもの鋤などひきさげてたゞほりにほりていぬるこそわびしうねたかりけれ。よろしき人などのあるをりはさもせぬものを、いみじうせいすれど「たゞすこし」など言ひていぬる言ふかひなくねたし。ずりやうなどの來てなめげに物いひ、さりとて我をばいかゞと思ひたるけはひに言ひ出でたるいとねたげなり。見すまじき人の文を引き取りて、庭におりて見たてるいとわびしうねたく、追ひて行けど、すのもとにとまりて見るこそ飛びも出でぬべき心ちすれ。すゞろなることはらだちて同じ所にもねず、身じくり出づるをしのびて引きよすれど、わりなく心ことなれば、あまりになりて人もさばよかなりとゑじて、かいくゞみて臥しぬる後いと寒き折などに、唯ひとへぎぬばかりにてあやにくがりて、大かた皆人もねたるに、さすがに起きゐらむあやしくて、夜の更くるまゝにねた