Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/252

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く起きてぞいぬべかりけるなど思ひ臥したるに、奧にもとにも物うちなりなどしておそろしければ、やをらまろび寄りてきぬ引きあぐるに、そらねしたるこそいとねたけれ。「猶こそこはがり給はめ」などうちいひたるよ。

     かたはらいたきもの

まらうどなどに逢ひて物いふに、奧のかたにうちとけごと人のいふをせいせで聞く心ち。思ふ人のいたくゑひておなじ事したる。聞き居たるをも知らで人のうへいひたる。それは何ばかりならぬつかひ人なれどかたはらいたし。旅だちたる所近き所などにてげすどものざれかはしたる。にくげなるちごをおのれが心ちにかなしと思ふまゝにうつくしみ遊ばし、これが聲のまねにて言ひける事など語りたる。ざえある人の前にてざえなき人の物おぼえがほに人の名などいひたる。殊によしともおぼえぬ。我が歌を人に語りきかせて、人の譽めしことなどいふもかたはらいたし。人の起きて物語などするかたはらにあさましううちとけてねたる人。まだねもひきとゝのへぬ琴を心一つやりて、さやうのかた知りつる人の前にて彈く。いとゞしう〈いととうイ〉住まぬむこのさるべき所にてしうとに逢ひたる。

     あさましきもの

さしぐしみがくほどに物にさへて折れたる。車のうちかへされたる。さるおほのかなるものはところせく久しくなどやあらむとこそ思ひしか。唯夢の心ちしてあさましうあやなし。人のために耻かしき事つゝみもなく、ちごもおとなもいひたる。かならずきなむと思ふ人を待