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御覽じ遊ばせ給へる思ふ事おはせじとおぼゆる。

     なまめかしきもの

ほそやかにきよげなるきんだちの直衣すがた、をかしげなる童女のうへのはかまなどわざとにはあらで、ほころびがちなるかざみばかり着てくすだまなど長くつけてかうらんのもとに扇さしかくして居たる。若き人のをかしげなる夏の几帳のしたうち懸けて、しろき綾ふたあゐ引き重ねて手ならひしたる。うすえふの草紙むらごの糸してをかしくとぢたる。柳のもえたるに靑きうすえふに書きたる文つけたる。ひげこのをかしう染めたるごえふの枝につけたる。三へがさねの扇いつへはあまりあつくなりてもとなどにくげなり。よくしたるひわりご、白きくみのほそき。新しくもなくていたくふりてもなきひはだやにさうぶうるはしくふきわたしたる。靑やかなるみすのしたより、〈きちやうのイ有〉くちきがたのあざやかに、ひもいとつやゝかにてかゝりたる。ひもの吹きなびかされたるもをかし。夏のもかうのあざやかなるすのとの高欄のわたりにいとをかしげなるねこの、赤きくびつなに白きふだつきて碇の緖くひつきて引きありくもなまめいたり。五月のせちのあやめの藏人、さうぶのかづら、あかひもの色にはあらぬをひれくたいなどしてくすだまをみこたち上達部などの立ちなみたまへるに奉るもいみじうなまめかし。取りて腰にひきつけて舞踏し拜したまふもいとをかし。ひとりのわらは。をみの君達もいとなまめかし。六位の靑色のとのゐすがた、臨時の祭の舞人。五節のわらはなまめかし。