Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/244

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に三とせ四とせばかりの程を、なりあしく、物の色よろしうてまじろはむはいふかひなきものなり。かうぶり得ておりむこと近くならむだに、いのちよりはまさりてをしかるべき事をその御たまはりなど申して、まどひけるこそ口をしけれ。昔の藏人はことしの春よりこそなきたちけれ。今の世にははしりくらべをなむする。

はかせのざえあるはいとめでたしといふもおろかなり。顏もいとにくげに、下﨟なれども世にやんごとなきものに思はれ、かしこき御前に近づきまゐり、さるべきことなど問はせ給ふ御文の師にて侍ふは、めでたくこそ覺ゆれ。願文も、さるべきものゝ序作り出してほめらるゝいとめでたし。法師のざえあるすべて言ふべきにあらず。持經者の一人してよむよりもあまたが中にてときなどさだまりたる御どきやうなどに、猶いとめでたきなり。くらうなりて「いづら御どきやうあぶらおそし」などいひて、よみやみたるほど忍びやかにつゞけ居たるよ。后の晝の行啓、御うぶや、みやはじめの作法しく、こまいぬ大しやうじなどもてまゐりて御ちやうのまへにしつらひすゑ、內膳御へつひわたしたてまつりなどしたる。姬君など聞えしたゞ人とこそつゆ見えさせ給はね。一の人の御ありき、春日まうで。えびぞめの織物、すべて紫なるはなにもなにもめでたくこそあれ、花も糸も紙も。紫の花の中にはかきつばたぞすこしにくき。いろはめでたし。六位のとのゐすがたのをかしきにもむらさきのゆゑなめり。ひろき庭にのふりしきたる。今上の一の宮〈敦康親王〉、まだわらはにておはしますが御をぢに上達部などのわかやかに淸げなるにいだかれさせ給ひて、殿上人など召しつかひ御馬引かせて