コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/243

提供:Wikisource
このページは校正済みです

れにぞあやしく思ひし」など仰せらるゝに、いとゞつらくうちも泣きぬべき心ちぞする。「いであはれいみじき世の中ぞかし。のちに降り積みたりし雪をうれしと思ひしを、それはあいなしとて、かき捨てよなど仰せ事侍りしか」と申せば、「げにかたせじとおぼしけるならむ」とうへも笑はせおはします。

     めでたきもの

唐錦、かざりだち、作り佛のもく。いろあひよく花房長くさきたる藤の松にかゝりたる。六位の藏人こそなほめでたけれ。いみじき君達なれどもえしも着給はぬ綾織物を心にまかせて着たる、あを色すがたなどいとめでたきなり。ところのしう、ざうしき、たゞの人の子どもなどにて、とのばらの四位五位六位もつかさあるが下にうち居て何と見えざりしも、藏人になりぬればえもいはずぞあさましくめでたきや。せんじもてまゐり、大饗の甘粟の使などに參りたるをもてなしきやうようし給ふさまいづこなりし。あまくだりびとならむとこそおぼゆれ。御むすめの、女御、后におはします。まだ姬君など聞ゆるも御使にて參りたるに御文とり入るゝよりうちはじめ、しとねさし出づる袖ぐちなど明暮見しものともおぼえず。下がさねのしりひきちらしてゑふなるは今すこしをかしう見ゆ。みづから盃さしなどし給ふを我が心にも覺ゆらむ。いみじうかしこまり、べちに居し家の君達をもけしきばかりこそかしこまりたれ。同じやうにうちつれありく。うへの近くつかはせ給ふさまなど見るはねたくさへこそ覺ゆれ。御文かゝせ給へば御硯の墨すり御うちはなどまゐり給へば、われつかうまつる