Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/242

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ひさわぐに、うちより仰せ事ありて「さて雪は今日までありつや」とのたまはせたれば、いとねたく口をしけれど「年のうちついたちまでだにあらじと人々けいし給ひし。きのふの夕暮まで侍りしをいとかしこしとなむ思ひ給ふる。けふまではあまりの事になむ、夜のほどに人のにくがりて取りすて侍るにやとなむ推しはかりはべるとけいせさせ給へ」と聞えさせつ。さて二十日に參りたるにも、まづこの事を御前にてもいふ。皆消えつとてふたのかぎりひきさげて持てきたりつる、帽子のやうにてすなはちまうで來たりつるがあさましかりし事、物のふたにこ山美くしうつくりて白き紙に歌いみじく書きて參らせむとせしことなどけいすれば、いみじく笑はせ給ふ。おまへなる人々も笑ふに「かう心に入れて思ひける事をたがへたれば罪得らむ。まことには四日の夕さり、侍どもやりて取りすてさせしぞ。かへりごとにいひあてたりしこそをかしかりしか。その翁出できていみじう手をすりて言ひけれど、おほせ事ぞ、かのより來たらむ人にかうきかすな、さらば、やうちこぼたせむといひて、左近のつかさ、南のついぢのとに皆取りすてし、いと高くて多くなむありつ〈如元〉といふなりしかば、げに二十日までも待ちつけてようせずは今年の初雪にも降りそひなまし。うへ〈一條院〉にも聞しめしていと思ひよりがたくあらがひたりと殿上人などにも仰せられけり。さても彼の歌をかたれ。今はかく言ひあらはしつれば、同じごとかちたり。かたれ」など御まへにものたまはせ、人々ものたまへど「なにせむにか、さばかりの事を承りながらけいし侍らむ」などまめやかにうく、心うがれば、うへも渡らせ給ひて「まことに年ごろは多くの人なめりと見つるを、こ