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らむ」といへば「それをせいして聞かざらむものは事のよしを申せ」などいひ聞かせて入らせ給ひぬれば、七日まで侍ひて出でぬ。そのほどもこれがうしろめたきまゝに、おほやけ人、すまし、をさめなどして、絕えずいましめにやり、七日の御節供のおろしなどをやりたれば、拜みつることなど、かへりては笑ひあへり。里にてもあくるすなはちこれを大事にして見せにやる。十日のほどには、五六尺ばかりありといへば、うれしく思ふに、十三日の夜雨いみじく降れば、これにぞ消えぬらむといみじう口をし。「今ひと日もまちつけで」とよるも起き居て歎けば聞く人も「物くるほし」と笑ふ。人の起きて行くにやがて起き居てげすおこさするに、更に起きねばにくみ腹だゝれて起きいでたるを遣りて見すれば「あらふだばかりになりて侍る。こもりいとかしこうわらはべも寄せで守りてあすあさてまでも侍ひぬべし、祿賜はらむと申す」といへば、いみじくうれしく、いつしかあすにならば、いととう歌よみて物に入れてまゐらせむと思ふもいと心もとなうわびしう、まだくらきに、大きなるをりびつなどもたせて「これにしろからむ所ひたもの入れてもてこ。きたなげならむはかき捨てゝ」など、言ひくゝめて遣りたれば、いととくもたせてやりつる物ひきさげて「はやう失せ侍りにけり」といふに、いとあさまし。をかしうよみ出でゝ人にも語りつたへさせむとうめきずんじつる歌もいとあさましくかひなく「いかにしつるならむ。きのふさばかりありけむ物をよのほどに消えぬらむこと」と言ひくんずれば、こもりが申しつるは「きのふいと暗うなるまで侍りき。祿をたまはらむと思ひつるものを、たまはらずなりぬる事と手をうちて申し侍りつる」とい