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て山たちばな、ひかげ、やますげなどうつくしげに飾りて御文はなし。「唯なるやうあらむやは」とて御覽ずれば、うづちの頭つゝみたるちひさき紙に、

 「山とよむ斧のひゞきをたづぬればいはひの杖のおとにぞありける」。

御返しかゝせ給ふほどもいとめでたし。齋院にはこれより聞えさせ給ふ。御返しも猶心ことにかきけがし、多く御用意見えたる。御使に白き織物のひとへすはうなるは梅なめりかし、雪の降りしきたるに、かづきてまゐるもをかしう見ゆ。このたびの御かへりごとを知らずなりにしこそくちをしかりしか。雪の山はまことにこしのにやあらむと見えて消えげもなし。くろくなりて見るかひもなきさまぞしたる。勝ちぬる心ちしていかで十五日まちつけさせむと念ずれど、「七日をだにえ過ぐさじ」と猶いへば、いかでこれ見はてむと皆人思ふ程に、俄に三日內へ入らせ給ふべし。いみじう口をしくこの山のはてを知らずなりなむ事と、まめやかに思ふ程に、人も「げにゆかしかりつるものを」などいふ。御まへにも仰せらる。同じくはいひあてゝ御覽ぜさせむと思へるかひなければ、御物の具はこび、いみじうさわがしきにあはせて、こもりといふ者のついぢの程に廂さして居たるをえんのもと近く呼びよせて「この雪の山いみじく守りてわらはべなどに踏みちらさせこぼたせで十五日まで侍はせ。よくよく守りてその日にあたらばめでたき祿たまはせむとす。わたくしにも、いみじきよろこびいはむ」など語らひて常に臺盤所の人、げすなどにこひてくるゝくだものや何やと、いと多くとらせたればうち笑みて「いとやすきこと、たしかに守り侍らむ。わらはべなどぞのぼり侍