Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/222

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と見どころなき。いろいろに亂れ咲きたりし花のかたもなく散りたる後、冬の末までかしらいと白くおほどれたるをも知らで昔思ひ出でがほになびきてかひろぎ立てる人にこそいみじう似ためれ。よそふる事ありてそれをしもこそ哀とも思ふべけれ。萩はいと色ふかく枝たをやかに咲きたるが、朝露にぬれてなよなよとひろごりふしたる、さをしかの分きてたちならすらむも心ことなり。からあふひはとりわきて見えねど、日の影にしたがひてかたぶくらむぞ、なべての草木の心とも覺えでをかしき。花の色は濃からねど咲く山吹にはいはつゝじもことなることなけれど、をりもてぞ見るとよまれたる、さすがにをかし。さうびはちかくて枝のさまなどはむつかしけれどをかし。雨など晴れゆきたる水のつら、黑木のはしなどのつらにみだれさきたるゆふばえ。

     おぼつかなきもの

十二年の山ごもりの法師のめおや。知らぬ所に闇なるに行き〈あひイ有〉たるに、あらはにもぞあるとて火もともさでさすがになみゐたる。今まできたるものゝ心も知らぬにやんごとなき物もたせて人のがりやりたるにおそくかへる。物いはぬちごのそりくつがへりて人にもいだかれず泣きたる。暗きにいちごくひたる。人の顏見しらぬ物見。

     たとしへなきもの

夏と冬と、よると晝と、雨ふると日てると、若きと老いたると、人の笑ふと腹だつと、黑きと白きと、思ふと憎むと、藍ときはだと、雨と霧と。おなじ人ながらも志うせぬるはまことにあ