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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/223

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らぬ人とぞ覺ゆるかし。常磐木おほかる所にからすのねて夜中ばかりにいねさわがしくおちまどひ、木づたひてねおびれたる聲に鳴きたるこそ晝のみめにはたがひてをかしけれ。忍びたる所にては夏こそをかしけれ。いみじう短き夜のいとはかなく明けぬるにつゆねずなりぬ。やがてよろづの所あけながらなれば凉しう見わたされたり。猶今少しいふべき事のあれば、かたみにいらへどもする程に、唯居たるまへ〈うへイ〉より烏の高くなきて行くこそいとけそうなる心ちしてをかしけれ。冬のいみじく寒きに思ふ人とうづもれふして聞くに鐘のおとのたゞ物の底なるやうに聞ゆるもをかし。鳥の聲もはじめははねのうちに口をこめながら鳴けば、いみじう物深く遠きがつきつぎになるまゝに近く聞ゆるもをかし。けさうびとにてきたるはいふべきにもあらず。唯うちかたらひ又さしもあらねどおのづからきなどする人のすのうちにてあまた人々居て物などいふに入りて、とみに歸りげもなきを供なるをのこわらはなど「斧の柄も朽ちぬべきなめり」とむつかしければ、ながやかにうちながめ〈あぐみイ〉てみそかにと思ひていふらめども「あなわびし。ぼんなうくなうかな。今は夜中にはなりぬらむ」などいひたるいみじう心づきなく、かのいふものはとかくもおぼえず。この居たる人こそをかしう見きゝつる事もうするやうに覺ゆれ。又「さは色に出でゝはえいはずある」と高やかにうちいひうめきたるも、したゆく水のといとをかし。たてじとみ、すいがいのもとにて「雨降りぬべし」など聞えたるもいとにくし。よき人きんだちなどのともなるこそさやうにはあらね、たゞ人などさぞある。あまたあらむ中にも心ばへ見てぞゐてありくべき。