Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/213

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書きたる。下すの家に雪の降りたる。又月のさし入りたるもいとくちをし。月のいと明きにやかたなき車にあひ〈のりイ有〉たる。又さる車にあめうしかけたる。老いたるものゝはらたかくてあへぎありく。又若き男もちたるいと見ぐるしきに、こと人のもとに行くとてねたみたる。老いたる男のね惑ひたる。又さやうに髭がちなる男の椎つみたる。齒もなき女の梅くひてすがりたる。げすの紅の袴着たる。このごろはそれのみこそあめれ。ゆげひのすけのやかう〈らイ〉に狩衣すがたもいとあやしげなり。又人におぢらるゝうへのきぬはたおどろおどろしく、たちさまよふも人見つけばあなづらはし。けんぎのものやあると戯にもとがむ。六位藏人、うへのはうぐわんとうちいひて、世になくきらきらしきものに覺え、里人げすなどはこの世の人とだに思ひたらず、目をだに見合せでおぢわなゝく人のうちわたりのほそどのなどに忍びて入りふしたるこそいとつきなけれ。そらだきものしたる几帳にうちかけたる袴の、おもたげにいやしうきらきらしからむもとおし量らるゝなどよ。さかしらにうへのきぬわきあけにて、鼠の尾のやうにてわがねかけたらむ程ぞ似げなきやかうの人々なる。このつかさのほどは念じてとゞめてよかし。五位の藏人も。

細殿に人とあまた居て、ありくものども見やすからず呼び寄せてものなどいふに、淸げなるをのこ、小舍人わらはなどのよきつゝみ袋にきぬどもつゝみて指貫の腰などうち見えたる。袋に入りたる弓、矢、たて、ほこ、たちなどもてありくを「たがぞ」と問ふについ居て、「なにがし殿の」といひて行くはいとよし。氣色ばみやさしがりて「知らず」ともいひ、聞きも入れで