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るが、人寄りくとも見えず。すべてたゞあさましう繪などのやうにて過ごしければ、ありがたくめでたく心にくゝ「いかなる人ならむ、いかで知らむ」と問ひけるを聞き給ひて、藤大納言「なにかめでたからむ、いとにくし。ゆゝしき物にこそあなれ」とのたまひけるこそをかしけれ。さてその二十日あまりに、中納言〈義懷〉の法師になり給ひにしこそあはれなりしか。櫻などの散りぬるも猶よのつねなりや。「老を待つまの」とだにいふべくもあらぬ御ありさまにこそ見え給ひしか。
七月ばかりいみじくあつければ、よろづの所あけながら夜もあかすに、月のころはねおきて見いだすもいとほし。やみも又をかし。有明はたいふもおろかなり。いとつやゝかなる板のはし近うあざやかなるたゝみ一ひらかりそめにうち敷きて三尺の几帳奧のかたに押しやりたるぞあぢきなき。はしにこそ立つべけれ。奧のうしろめたからむよ。人は出でにけるなるべし。うす色のうらいと濃くてうへは少しかへりたるならずば、濃き綾のつやゝかなるがいたくはなえぬを、かしらこめてひき着てぞねためる。かうぞめのひとへ、紅のこまやかなるすゞしの袴の腰いと長く、きぬの下よりひかれたるもまだ解けながらなめり。そはのかたに髮のうちたゝなはりてゆらゝかなるほど、長さおしはかられたるに、又いづこよりにかあらむ、あさぼらけのいみじうきり滿ちたるに、二藍の指貫あるかなきかのかうぞめの狩衣、白きすゞし、紅のいとつやゝかなるうちぎぬの霧にいたくしめりたるをぬぎ垂れて、鬢の少しふくだみたれば烏帽子の押し入れられたるけしきもしどけなく見ぬ。朝顏の霧落ちぬさき