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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/192

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がさね。ちあえずなりぬる乳母。

     たゆまるゝもの

さうじの日のおこなひ、日遠きいそぎ、寺に久しくこもりたる。

     人にあなづらるゝもの

家の北おもて〈六字イ無〉、あまり心よきと人に知られたる人、年老いたるおきな〈八字イ無〉、又あはあはしき女、ついぢのくづれ。

     にくきもの

急ぐ事あるをりにながごとするまらうど。あなづらはしき人ならば のちになどいひても追ひやりつべけれども、さすがに心はづかしき人いとにくし。硯に髮の入りてすられたる。又墨のなかに石こもりてきしきしときしみたる。俄かに煩ふ人のあるにけんざもとむるに、例ある所にはあらでほかにある。尋ねありく程に待遠に久しきを辛うじて待ちつけて悅びながら加持せさするに、この頃ものゝけにこうじにけるにや、ゐるまゝにすなはちねぶり聲になりたるいとにくし。なんでふことなき人のすゞろにえがちに物いたういひたる。火桶すびつなどに手のうらうちかへし、皺おしのべなどしてあぶりをるもの。いつかは若やかなる人などのさはしたりし。老いばみうたてあるものこそ火桶のはたに足をさへもたげて、物いふまゝにおしすりなどもするらめ。さやうのものは人のもとに來てゐむとする所を、まづ扇してちり拂ひすてゝゐも定まらずひろめきて、狩衣の日は前下ざまにまくり人れてもゐるかし。か