Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/188

提供:Wikisource
このページは校正済みです

かしからぬ人二三人ばかり召し出でゝ、ごひししてかずを置かせ給はむとて聞えさせ給ひけむ程、いかにめでたくをかしかりけむ。御前に侍ひけむ人さへこそうらやましけれ。せめて申させ給ひければ、さかしうやがて末までなどはあらねど、すべてつゆたがふ事なかりけり。いかで猶少しおぼめかしくひがごと見つけてをやまむとねたきまでおぼしける。十卷にもなりぬ。更に不用なりけりとて、御草紙にけうさんしてみとのごもりぬるもいとめでたしかし。いと久しうありて起きさせ給へるに、猶この事さうなくてやまむ、いとわろかるべしとて、下の十卷をあすにもならばことをもぞ見給ひ合するとて、今宵定めむとおほとなぶら近く參りて夜ふくるまでなむよませ給ひける。されど終にまけ聞えさせ給はずなりにけり。うへ〈村上天皇〉渡らせ給うてのち、かゝる事なむと人々殿に申し奉りければ、いみじうおぼし騷ぎて御誦經などあまたせさせ給うてそなたに向ひてなむ念じくらさせ給ひけるもすきずきしくあはれなる事なり」など語り出させ給ふ。うへ〈一條院〉も聞しめしてめでさせ給ひ、「いかでさ多くよませ給ひけむ、我は三まき四まきだにもえよみはてじ」と仰せらる。「昔はえせものも皆すきをかしうこそありけれ。この頃かやうなる事やは聞ゆる」など御まへに侍ふ人々、うへの女房のこなた許されたるなど參りて、口々いひ出でなどしたる程はまことに思ふ事なくこそ覺ゆれ。おひさきなくまめやかにえせざいはひなど見て居たらむ人は、いぶせくあなづらはしく思ひやられて、猶さりぬべからむ人のむすめなどは、さしまじらはせ、世の中の有樣も見せならはさまほしう、內侍などにてもしばしあらせばやとこそ覺ゆれ。宮仕する人をば