Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/177

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どにけしきばかり包みて行きちがひもてありくこそをかしけれ。すそご、むらご、まきぞめなど常よりもをかしう見ゆ。わらはべのかしらばかり洗ひつくろひて、なりは皆なえほころび、うち亂れかゝりたるもあるが、けいし、くつなどの緖すげさせ、裏をさせなどもてさわぎいつしかその日にならむと急ぎ走りありくもをかし。あやしう踊りてありくものどものさうぞきたてつれば、いみじくちやうざといふ法師などのやうに、ねりさまよふこそをかしけれ。ほどほどにつけて親をばの女姉などのともして、つくろひありくもをかし。

     ことことなるもの

法師の詞、男女の詞。げすの詞にはかならず文字あまりしたり。

おもはむ子を法師になしたらむこそはいと心苦しけれ。さるは、いとたのもしきわざを、たゞ木のはしなどのやうに思ひたらむこそいとほしけれ。さうじものゝあしきをくひ、いぬるをも、若きは物もゆかしからむ。女などのある所をもなどか忌みたるやうにさしのぞかずもあらむ。それをも安からずいふ。まして驗者などのかたはいと苦しげなり。み嶽、くまの、かゝらぬ山なくありく程に、おそろしき目も見、しるしあるきこえ出できぬれば、こゝかしこによばれ時めくにつけてやすげもなし。いたく煩ふ人にかゝりて、ものゝけてうずるもいと苦しければ、こうじてうちねぶれば「ねぶりなどのみして」と咎むるもいと所せく、いかに思はむと、これは昔のことなり。いまやうはやすげなり。

大進なりまさが家に宮〈定子〉の出でさせ給ふに、ひんがしのかどはよつあしになしてそれより御