Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/175

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程かしらども一ところにまろびあひて、さしぐしも落ち、用意せねば折れなどして笑ふも又をかし。左衞門の陣などに殿上人あまた立ちなどして、舍人の馬どもをとりて驚かして笑ふを、はつかに見入れたれば、たてしとみなどの見ゆるに、とのもりづかさ、女官などの行きちがひたるこそをかしけれ。いかばかりなる人、九重をかく立ちならすらむなど思ひやらるゝうちにも見るはいとせばきほどにて、舍人がかほのきぬもあらはれ、白きものゝゆきつかぬ所はまことに黑き庭に雪のむら消えたる心ちしていと見ぐるし。馬のあがり騷ぎたるもおそろしく覺ゆれば、引きいられてよくも見やられず。

八日、人々よろこび〈四字いはひイ〉してはしりさわぎ、車のおともつねよりは殊に聞えてをかし。

十五日はもちかゆのせくまゐる。かゆの木ひきかくしていへのこだち、女房などのうかゞふを、うたれじとよういして、つねにうしろを心づかひしたるけしきもをかしきに、いかにしてけるにかあらむ、打ちあてたるはいみじうけうありとうちわらひたるもいとはえばえし。ねたしと思ひたる、ことわりなり。去年よりあたらしうかよふむこの君などのうちへ參るほどを、こゝろもとなくところにつけて我はとおもひたる女房ののぞき、おくのかたにたゝずまふを、まへに居たる人はこゝろえてわらふを「あなかまあなかま」とまねきかくれど、君見知らずがほにておほどかにて居給へり。「こゝなる物とり侍らむ」などいひ寄り、はしりうちて逃ぐればあるかぎり笑ふ。男君もにくからず、あいぎやうづきてゑみたる。ことにおどろかず、顏すこしあかみて居たるもをかし。又かたみに打ちて男などをさへぞうつめる。いか