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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/168

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べし、

 「かしはぎの森だにしげく聞くものをなどか三笠の山のかひなき」。

かへし、

 「かしはぎの〈もイ〉三笠のやまも夏なればしげり〈れイ〉〈てイ〉あやな人の知らなく」。

かへりごとするを、親か〈はカ〉らは〈かカ〉ら制すと聞きて、まろ小菅にさして、

 「うちそばみ君一人見よまろこすげまろは一すげなしといふなり」。

わづらひ給ひて、

 「うつせがは淺さの程も知らは〈れイ〉じと思ひしわれやまづ渡りなむ」。

かへし、

 「みつせ川われよりさきに渡りなばみぎはにわぶる身とやなりなむ」。

かへりごと、するをりせぬをりのありければ、

 「かくめりと見れば絕えぬるさゝがにの糸ゆゑ風のつらくもあるかな」。

七月七日、

 「七夕にけさひく糸の露を〈おカ〉〈衍歟〉もみたわむけしきも見でややみなむ」。

これはあしたの、

 「わ〈日ごイ〉ろよりあしたのそでぞぬれにけるなにを晝まの慰めにせむ」。

入道殿〈兼家〉、中納言爲雅朝臣のむすめを忘れ給ひにける後、「日陰の糸結びて」とて給へりけれ