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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/162

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より淸げなるかいねりに、紫の織物重なりたる袖ぞ〈さしイ有〉出でためるを女車なりけりと見る所に、車のしりの方にあたりたる人の家の門より六位なるものゝ、たちはきたるふるまひ出で來て、前の方にひざまづきて、ものをいふに、驚きて目をとゞめて見れば、かれが出で來つる車のもとには、あかき人黑き人多うて數もしらぬほどに立てりけり。よく見もていけば、見し人々のあたりなりけりと思ふ。例の年よりはことどうなりて、上達部の車かいつれてくるもの皆かれを見てなべし。そことにもとまりて、おほ〈なイ〉じ所に口をつどへて立ちたり。我が思ふ人にはかに出でたる程よりは、供人などもきらきらしう見えたり。上達部手每に菓物などさし出でつゝものいひなどし給へばおもたゝしき心ちす。又ふるめかしき人も、例のゆるされぬことにて山吹のなかにあるを、うち散りたる中にさし分きてとらへさせて、かのうちより酒などとり出でたれば、かはらけさしかけられなどするを見れば、唯そのかた時ばかりや、行く心もありけむ。さて佐〈道綱〉にかくてやなどさかしらがる人のありてものいひ續く人あり。八橋の程にやありけむ、始めて、

 「かづらきや神代のしるし深からばたゞ一ことにうちもとけなむ」。

かへりごとこたびはな〈あイ〉めり。

 「葛城の蛛手はいづこやつはしのふみ見てけむ〈りイ〉とたのむかひなく」。

こたびぞかへりごと、

 「通ふべき道にもあらぬやつはしの〈をイ〉ふみ見てきとてなに賴むらむ」