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と書きてして〈如元〉書いたり。又、

 「なにかその通はむ道のかたからむふみ始めたるあとをたのめる〈ばイ〉

又かへりごと、

 「尋ぬらむ〈ともイ〉かひやなからむ大空のくもぢは通ふあとはかもあらじ」。

まけじと思ひ顏なめれば、又、

 「おほ空も雲のかけはしなくばこそかよふはかなき歎きをもせめ」。

かへし、

 「ふみゝれど雲のかけはしあやふしと思ひしらずもたのむなるかな」。

又やる、

 「なほをらむ心たのもしあしたづのくもぢおりくるつばさやはなき」。

こたみはくらしとてやみぬ。しはすになりにたり。又、

 「かたしきし〈てイ〉としはふれどもさごろものなみだにしむる時はなかりき」。

「ものへなむ」とてかへり事なし。又の日ばかり返りごと、こひにやりたれば、「そばの木に見き」とのみ書きておこせたり。やがて、

 「我がなる〈かイ〉はそばのぬるかと思ふまで見きとばかりも氣色ばむかな」。

かへりごと、

 「天雲の山のはるけきまろ〈つイ〉なればそばぬるいろはときはなりけり」。