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しも猶さし合せておはしつどふ。いとやんごとなきわざなめり。猶末の代にはいかゞあらむといぶかし。廿八日はうちの最勝講五卷の日にて、又人々かずを盡して參りたまふ。廿九日には法性寺の淨光明院にて普賢寺殿の御忌日の法事あり。この御堂の莊嚴のめでたさかぎりなし。まことの淨土思ひやらるゝさまなり。こゝもかしこもこの程はたふとき事のみおほくて耳ぞおほくほしかりける。まことやこぞより中宮はいつしかたゞならずおはします。六月になりてその程近ければ、十三社の奉幣勅使立てらる。日比の御いのりにうちそへ世の中ゆすりさわぐ。六日より七佛藥師五壇のみしほなどはじまる。中壇は櫻井の宮〈御鳥羽院の御子〉勤めさせ給ふ。今出川のおとゞにおはしませば御家の殿ばら絕えずさぶらひ給ふ。十日のあけぼのよりその御けしきあれば殿の內たちさわぐ。白き御よそひにあらためて母屋にうつらせ給ふ。天下のゝしりたちて馬車走りちがふさまいとこちたし。內よりも御使ひまなし。料の御馬にて雨の脚よりもしげく走りきほふ。さらでだにいと暑き頃を、汗におしひたしたる人々のけしきいとわりなし。后の宮いと苦しげにし給ひて日たけゆくに、いろいろの御物の怪どもなのりいでゝいみじうかしがまし。おとゞ北の方いかさまにと御心惑ひて、おぼし歎くさまあはれにかなし。かやうのきざみは高きも下れるもおろかなるやはある。なべて皆かくこそはあれど、げにさしあたりたる世のけしきをとりぐしていみじうおぼさるべし。うちの御めのと大納言二位殿おとなおとなしき內侍のすけなどさるべきかぎり參り給へり。今日も猶心もとなくて暮れぬればいとおそろしうおぼす。伊勢のみてくらづかひなど立てらる。諸