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る。

  「昨日までみたらし川にせしみそぎしがの浦波たちぞかへたる」

と侍りけるとなむ。秋の事なりけるに、かりごろもおのおの萩、龍たんなどいと珍らしきに、逢坂のせきうち越えて、山のけしきみづうみなどいとおもしろくて、御祓のところには、かたのやうなるかりやに、いがきのあけの色水のみどり見えわきて、心あらむ人はいかなる言のはも、いひとゞめまほしきに、おとゞの御歌たけたかくいとやさしくこそ聞こえはべりしか。


今鏡第七

    村上の源氏

     うたゝね

藤波の御流れの榮え給ふのみにあらず、みかど一の人の御母方には、近くは源氏の君だちこそよき上達部どもはおはすなれ。堀河のみかどの御母賢子の中宮は、おほとのゝ御子とて參り給へれど、誠は六條の右のおとゞの御女なり。きさきの御事はみかどのついでに申し侍りぬ。そのゆかりのありさま源をたづぬればいとやんごとなくなむ侍る。村上のみかどの御子に中務のみこと申しゝは、六條の宮とも後の中書王とも申す、この御事なり。ふみ作らせ給