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     花ちる庭の面

春宮大夫の六郞にやおはすらむ、左大臣實能のおとゞ、これも左衞門の督山の座主女院などの一つ御はらからにて、二位の御子におはす。大炊のみかどのおとゞとも德大寺のおとゞとも申すなるべし。御みめも心ばへもたをやかに、いとよき人におはしき。兄よりもなつかしく、いうなる人におはせしを、ふみなど作り給ふことはおはせねど、歌などよくよみ給ひき。戀の歌の中にも、いうに聞こえ侍りしは、「うつゝにつらき心なりとも」また「命だにはかなからずば」なども聞こえ侍りき。また「思ふばかりの色にいでば」などよき歌とこそきゝはべれ。又「あひみし夜はの嬉しさに」なども聞こえ侍りき。聲もよくおはしけるにや、御遊びに拍子とり給ふなどぞうけたまはりし。「庭こそ花の」などいふも、この御歌とこそおぼえはべれ。世のおぼえも殊の外におはしき。むかひばらにておはするうへに、人がらよくおはすればにや、三位の中將歷給へるも殊の外の御おぼえなり。此の頃こそ多くきこえたまへ。關白つぎ給ふべき人など放ちては、さることも侍らぬに、いとめづらしく侍りき。大納言の大將になり給へりしも、近くたゞびとのなり給ふこともなきに、いと珍らかになむ侍りし。左大臣までなり給へる、閑院のおとゞの後は四代なり絕え給へるに、この殿の大將になりはじめたまひて、兄の太政のおとゞ、この左のおとゞ、右大臣內大臣になりはじめ給ひて、公達もおのおのなり給へり。兄の太政のおとゞ、按察の大納言とておはせし、大將弟になられて、こもり給ひしに、一の大納言忠敎、二の大納言實行、三にて雅定、第四實能の大納言おはせし、上