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と仰せられけるに、俊賴のきみ、

  「しもさぶらひにさぶらひもせで」

と付けられたりけるを、詞とゞこほりたりと聞こゆれど、心ばせもある事と聞こゆめり。歌のふぜい、いたづらにうする事なりとて、連歌をば大方せられざりけりと聞こえ侍りしに、金葉集にぞいとしもなき多く集められたる。いたづらに出できたるを、惜まれ侍るなるべし。基俊の君が連歌は、「月くさのうつしのもとのくつわ蟲」などしたるをいふなり。又「からかどやこのみかどゝもたゝくかな」など侍りけり。木工の頭俊賴も、高陽院の大殿のひめ君と聞こえ給ひし時、つくりてたてまつり給へりとか聞こゆる和歌のよむべきやうなど侍るふみには、道信の中將の連歌、伊勢大輔が、「こはえもいはぬ花の色かな」と付けたる事などいというなることにこそ侍るなれば、連歌をもうけぬことにひとへにし給ふとも聞こえず。おほかたは、見る事聞くことにつけて、かねてぞよみまうけられける。當座によむことはすくなく、擬作とかきてぞ侍りつる。さて侍りけるにや。家集に、きゝときゝ給へりけると覺ゆることをよみ集められ侍るめり。これは連歌の序に、うけたまはりしことを申し侍るになむ。さてこの御時に、御息所は、これかれ定められ給へりけれども、御をばの前齋院ぞ女御に參り給ひて、中宮にたち給ひし。殊の外の御よはひなれど、幼くより類ひなく見とりたてまつらせ給ひて、たゞ四宮をとかや、おぼせりければにや侍りけむ。參らせ給ひける夜も、いとあはぬ事にて、御車にもたてまつらざりければ、曉ちかくなるまでぞ、心もとなくはべりける。