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ず。まづ刧のありさまを申して世のなりゆくさまもかくぞかしと知らせ奉らむ。人の命の八萬歲ありしが、百年といふに一年の命のつゞまりつゞまりして十歲になるを、一の小刧とは申すなり。さて十歲よりまた百年に一年の命をそへて八萬歲になりぬ。これをも一の小刧と申す。この二の小刧をあはせて一の中刧とは申すなり。さて世のはじまる時をば成刧と申してこの中刧と申しつる程を二十すぐすなり。そのはじめの一刧の始の程はつやつやと世の中なくて空の如くにてありしに、山河などいできてかく世間の出でくるなり。今十九刧には極光淨といふ天よりひとりの天人生れて大梵王となる。その後次第にやうやうしもざまに生れて次にひと生れ、餓鬼畜生いできてはてに地獄は出でくるなり。かくて成刧廿刧はきはまりぬ。世間も有情も成り定まるによりて成刧とは申すなり。次に住刧と申して又二十の中刧のほどをすぐすなり。但しはじめの一刧は命次第に劣りのみして增ることなし。されば住刧のはじめの人、命は八萬歲にはあらで、無量歲にて、それより十歲までなるなり。されどもほどの經ることは一の中刧のほどなり。さて第二の刧より十九の刧までさきに申しつるやうに、八萬歲より十歲になり十歲より八萬歲になり、刧每にかく侍るなり。さて第二十の刧は十歲より八萬歲まで增ることのみありて劣ることなし。これも過ぐる程は一の中刧なり。これは天より地獄まで成刧にいできとゝのほりて有情のある程なり。さて住刧とは申すなり。次に壞刧と申して、この程また二十の中刧の程なり。始の十九刧には地獄より始めて有情みなうせぬ。この失すると申すはいづこともなく失せぬるにはあらず。しかるべくして天上へ