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芹川のみゆきせしめ給ひけるに、昭宣公童殿上にて仕うまつらせ給へりける。御門琴をあそばしける。この琴ひく人はべつのつめをつくりておよびにさし入れてぞ彈くことにて侍りし。さてもたせ給ひけるを落しおはしまして、大事におぼしめしけれど又造らせ給ふべきやうもなかりければ、さるべきにぞ思しめしよりけむ、おとなしき人々にも仰せられで、をさなくおはします君にしも、「もとめて參れ」と仰せられければ、御馬をうちかへしておはしましけれど、いづこをはかりともいかでかは尋ねさせ給はむ。見出でゝ參らせざらむことのいみじう思しめされければ、これ求め出でたらむ所には一伽藍を建てむと願じおぼして、もとめさせ給ひけるにいできにたる所ぞかし、極樂寺は。をさなき御心にいかでか思しめしよらせ給ひけむ。さるべきに御爪もおち、をさなくおはします人にも仰せられけるにこそははべりけめ。さてやんごとなくならせ給ひて、御堂建てさせにおはします御車に貞信公はいとちひさくて具し奉り給へりけるに、法性寺の前わたり給ふとて、てゝごに、「こゝこそよき堂どころなめれ。こゝに建てさせ給へかし」ときこえさせ給ひけるに、いかに見てかくいふらむとおぼえて、さし出でゝ御覽ずれば、まことにいとよく見えければ、をさなきめにいかでかく見つらむ、さるべきにこそあらめと思しめして、「げにいとよき所なめり。ましが堂をたてよ。われはしかじかの事のありしかば、そこに建てむずるぞ」と申させ給ひける。さて法性寺は建てさせ給ひしなり。また九條殿の飯室の事などはいかにぞ。橫川の大僧正御房にのぼらせ給ひし御供には繁樹もまゐりて侍りき。かうやうのことどもきこえ給ふれど、猶この入道