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て習ひまねばゞ、ざえといふもの孰れもきはなく覺えつゝ、我が心にあくべきかぎりなく習ひとらむことはいと難けれど、何かはそのたどり深き人の今の世にをさをさなければかたはしをなだらかにまねびえたらむ人、さるかたかどに心をやりてもありぬべきを、きんなむ猶煩はしく手ふれにくきものにはありける。この事は誠にあとのまゝに尋ねとりたる昔の人はあめつちをなびかしおにがみの心をやはらげ萬の物のねのうちに從ひてかなしび深きものもよろこびにかはり賤しく貧しきものも高き世にあらたまりたからにあづかり世にゆるさるゝたぐひ多かりけり。この國にひき傅ふる始つかたまで深くこの事を心得たる人は多くの年を知らぬ國にすぐし身をなきになしてこのことをまねび取らむと惑ひてだにしうるは難くなむありけるを、げにはたあきらかに空の月星をうごかし時ならぬ霜雪を降らせくもいかづちをさわがしたるためし、あがりたる世にはありけり。かく限りなきものにてそのまゝに習ひとる人のありがたく世の末なればにや、いづこのかたはしにかはあらむ。されど猶おにがみの耳とゞめかたぶきそめにけるものなればにやなまなまにまねびて思ひかなはぬたぐひありける。のちこれをひく人によからずとかいふなんをつけてうるさきまゝに今はをさをさ傅ふる人なしとか。いと口惜しきことにこそあれ。きんのねをはなれては、何事をか物をとゝのへしるしるべとはせむ。げに萬の事衰ふるさまは易くなりゆく世の中に一人出て離れて心を立てゝもろこしこまとこの世に惑ひありき親子を離れむことは世の中にひがめるものになりぬべし。などかなのめにて猶この道をかよはししるばかりのはしをば知