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たるは數少くなりためるをそのこのかみと思へる上手どもいくばくえまねび取らぬにやあらむ。このがくほのかなる女たちの御中にひきまぜたらむにきは離るべくこそ覺えね。年比かくうもれてすぐすに耳なども少しひがひがしくなりにたるにやあらむ。口惜しうなむ怪しく人のざえはかなくとりすることゞもゝ物のはえありてまさる所なる。その御前の御あそびなどにひときざみにえらばるゝ人々、それかれといかにぞ」とのたまへば大將「それをなむとり申さむと思ひ侍りつれどあきらかならぬ心のまゝにおよすげてやはと思ひ給ふる。のぼりての世を聞き合せ侍らねばにや、衞門督のわごん、兵部卿の宮の御琵琶などをこそこの比珍らかなるためしに引き出で侍るめれ。げにかたはらなきを、こよひうけたまはるものゝ音どもの皆等しく耳驚き侍れば、猶かくわざともあらぬ御あそびとかねて思ひ給へたゆみける心の騷ぐにや侍らむ、さうがなどいと仕うまつりにくゝなむ。和琴はかのおとゞばかりこそかく折につけてこしらへなびかしたるねなど、心にまかせて搔き立て給へるはいとことにものし給へ。をさをさきは離れぬものに侍るめるを、いとかしこく整ひてこそ侍りつれ」とめで聞え給ふ。「いとさことごとしききはにはあらぬをわざとうるはしくも取りなさるゝかな」とてしたり顏にほゝゑみ給ひけり。「けしうはあらぬ弟子どもなりかし。琵琶はしもこゝに口入るべきことまじらぬを、さいへど物のけはひことなるべし。覺えぬ所にて聞き始めたりしに珍しき物の聲かなとなむ覺えしかど、その折よりは又こよなくまさりにたるをや」とせめてわれがしこに喞ちなし給へば女房などは少しつきしろふ。「萬の事道々につけ