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さまにやとて、なかなかよそのことに聞え放ちたるさまにて侍る。內の御事はかの御遺言違へず仕うまつりおきてしかば、かく末の世のあきらけき君としてきし方の御おもてぶせをもおこし給ふ、ほいのごといと嬉しくなむ。この秋の行幸の後、いにしへのこととり添へてゆかしくおぼつかなくなむおぼえ給ふ。たいめんに聞ゆべきことゞも侍り。必ず自らとぶらひものし給ふべきよし催し申し給へ」などうちしほたれつゝのたまはす。中納言の君、「過ぎ侍りにけむかたは、ともかくも思う給へわき難く侍り。年まかり入り侍りておほやけにも仕うまつり侍るあひだ世の中の事を見給へまかりありく程には、大小のことにつけても內々のさるべき物語などのついでにもいにしへのうれはしき事ありてなむなど、うちかすめ申さるゝ折は侍らずなむ。かくおほやけの御うしろみを仕うまつりさして靜なる思ひをかなへむと、ひとへに籠り居し後は、何事をも知らぬやうにて故院の御ゆゐごんの事もえ仕うまつらず、御位に坐しましゝ世には齡の程も身のうつはものも及ばず、かしこきかみの人々多くて、その志をとげて御覽ぜらるゝこともなかりき。今かくまつりごとをさりて靜におはします比ほひ心のうちをも隔なく、參りうけたまはらまほしきを、さすがに何となく所せき身のよそほひにておのづから月日を過ぐすことゝなむ折々歎き申し給ふ」など奏し給ふ。二十にもまだ僅なる程なれどいとよく整ひすぐしてかたちも盛ににほひていみじく淸らなるを、御目にとゞめてうちまもらせ給ひつゝ、このもて煩はせ給ふ姬宮の御うしろみにこれをやなど人知れずおぼしよりけり。「おほきおとゞのわたりに今は住みつかれにたりとな年頃