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心得ぬさまに聞きしがいとほしかりしを、耳やすきものからさすがに妬く思ふことこそあれ」とのたまはする御氣色を、いかにのたまはすることにかとあやしく思ひ迴らすに、この姬宮をかくおぼしあつかひてさるべき人あらばあづけて心安く世をも思ひ離ればやとなむおぼしのたまはすると、おのづから漏り聞き給ふたよりありければさやうのすぢにやとは思ひよれどふと心得顏にも何にかはいらへ聞えさせむ。「唯はかばかしくも侍らぬ身にはよるべもさぶらひ難くのみなむ」とばかり奏して止みぬ。女房などは覗きて見聞えて、「いとありがたくも見え給ふかたちよういかな。あなめでた」など集りて聞ゆるを、おいしらへるは、「いでさりともかの院のかばかりにおはせし御有樣にはえなずらへきこえ給はざめり。いと目もあやにこそ淸らに物し給ひしか」などいひしろふを聞しめして「誠にかれはいとさま異なりし人ぞかし。今は又その世にもねびまさりて光るとはこれをいふべきにやと見ゆるにほひなむいとゞ加はりにたる。うるはしだちてはかばかしきかたに見ればいつくしくあざやかに目も及ばぬ心地するを、又打ち解けてたはぶれごとをもいひ亂れ遊べばそのかたにつけては似るものなくあいぎやうづきなつかしくうつくしきことのならびなきこそ世にありがたけれ。何事にもさきの世推し量られて珍らかなる人の有樣なり。宮の內におひ出でゝ帝王のかぎりなく悲しきものにし給ひ、さばかりなでかしづき身にかへておぼしたりしかど、心のまゝにもおごらずひげして二十がうちには納言にもならずなりにきかし。ひとつあまりてや宰相にて太將かけ給へりけむ。それに、これはいとこよなく進みにためるは次々の