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琶のねも合せて女樂こゝろみさせむ、只今の物の上手どもこそ更にこのわたりの人々の御心しらひどもにまさらね、はかばかしく傳へ取りたることはをさをさなけれど、何事もいかで心に知らぬことあらじとなむ、幼きほどに思ひしかば世にある物の師といふかぎり、又高き家々のさるべき人の傅へどもを殘さず試みし中にいと深くはづかしきかなと覺ゆるきはの人なむなかりし。そのかみよりも又この比の若き人々のざれよしめきすぐすにはたあさくなりにたるべし。きんはたまして更にまねぶ人なくなりにたりとか。この御琴のねばかりだに傳へたる人をさをさあらじ」とのたまへば何心なく打ちゑみて嬉しくかくゆるし給ふ程になりにけるとおぼす。廿一二ばかりになり給へど猶いといみじくかたなりにきびはなる心地してほそくあえかに美しくのみ見え給ふ。「院にも見え奉り給はで年經ぬるをねびまさり給ひにけりと御覽ずばかり用意くはへて見え奉り給へ」とことに觸れて敎へ聞え給ふに、げにかゝる御うしろみなくてはましていはけなくおはします御有樣かくれなからましと人々も見奉る。正月二十日ばかりになれば空もをかしき程に風ぬるくふきて御前の梅も盛になりゆく。大方の花の木どもゝ皆氣色ばみ霞み渡りにけり。「月たゝば御いそぎ近く物騷がしからむにかきあはせ給はむ御琴のねもしがくめきて人のいひなさむを、このころ靜なるほどに試み給へ」とてしん殿にわたし奉り給ふ。御供にわれもわれもと物ゆかしがりてまう上らまほしがれどこなたに遠きをばえりとゞめさせ給ひて少しねびたれどよしあるかぎりえりてさぶらはせ給ふ。わらはべはかたちすぐれたる四人赤色に櫻のかざみ薄色の織物の