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もの四季につけて變るべきひゞき空のさむさぬるさをとゝのへ出でゝやんごとなかるべき手のかぎりを取り立てゝ敎へ聞え給ふに、心もとなくおはするやうなれどやうやう心得給ふまゝにいとよくなり給ふ。晝はいと人しげく猶ひとたびもゆしあんずる暇も心あわたゞしければよるよるなむしづかにことの心もしめ奉るべきとて對にもその比は御暇聞え給ひて明暮敎へ聞え給ふ。女御の君にも對の上にもきんは習はし奉り給はざりければこのをりをさをさ耳なれぬ手ども彈き給ふらむをゆかしとおぼして女御もわざとありがたき御暇を唯暫しと聞え給ひてまかで給へり。御子二所おはするを又もけしきばみ給ひていつゝきばかりにぞなり給へればかみわざなどにことつけておはしますなりけり。十一月すぐしては參り給ふべき御せうそこうちしきりあれどかゝるついでにかくおもしろきよるよるの御遊をうらやましく、などて我に傳へ給はざりけむとつらく思ひ聞え給ふ。冬の夜の月は人にたがひてめで給ふ御心なればおもしろき夜の雪の光にをりに合ひたる手どもひき給ひつゝさぶらふ人々も少しこの方にほのめきたるに御琴どもとりどりにひかせて遊びなどし給ふ。年の暮れつかたは對などにはいそがしくこなたかなたの御いとなみにおのづから御覽じ入るゝことゞもあれば春のうらゝかならむ夕などにいかでこの御琴のね聞かむとのたまひわたるに年返りぬ。院の御賀まづおほやけよりせさせ給ふ。ことどもいとこちたきにさしあひてはびんなくおぼされて少しほどすぐし給ふ。二月十餘日と定め給ひて樂人まひ人など參りつゝ御あそび絕えずあり。「この對に常にゆかしうする御琴のねいかでこの人々のさう琵