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しもびとなどは目につきてめでたしとは思へる。尼君の御前にもせんかうのをしきにあをにびのおもておりてさうじものを參るとて目ざましき女のすくせかなとおのがじゝはしりうごちけり。詣でたまひし道はことごとしくて煩はしき神だからさまざまに所せげなりしをかへさは萬のせうえうを盡し給ふ。言ひ續くるもうるさくむつかしき事どもなれば、かゝる御有樣をもかの入道の聞かず見ぬ世にかけ離れ給へるのみなむあかざりける。難きことなりかし。まじらはましも心苦しくや。世の中の人これをためしにて心高くなりぬべきころなめり。萬の事につけてめであさみ世のことぐさにて明石の尼君とぞさいはひびとにいひける。かのちじの大殿の近江の君はすぐろくうつ時の詞にも明石の尼君明石の尼君とぞ幸ひ乞ひける。入道のみかどはおこなひをいみじくし給ひてうちの御事をも聞き入れ給はず、春秋の行幸になむ昔思ひ出でられ給ふこともまじりける。姬宮の御事をのみぞ猶えおぼしはなたでこの院をば猶大方の御うしろみに思ひ聞え給ひてうちうちの御心よせあるべくそうせさせ給ふ。二品になり給ひてみふなどまさる、いよいよ花やかに御勢そふ。對の上かく年月にそへてかたがたにまさり給ふ御おぼえに我が身はたゞ一所の御もてなしに人には劣らねどあまり年積りなばその御心ばへも遂に衰へなむ。さらむ世を見はてぬさきに心と背きにしがなとたゆみなくおぼしわたれどさかしきやうにやおぼさむとつゝまれて、はかばかしくもえ聞え給はず。うちのみかどさへ御心よせことに聞え給へばおろかに聞かれ奉らむもいとほしくて渡り給ふ事やうやうひとしきやうになりゆく。さるべき事ことわりとは思ひな